前 文
全ての人は、自分の生活に関わるさまざまな人と交流し、多様な関係をつくる中で、自分らしい豊かな生活を送る権利を有しています。しかし、現実には、多くの障がい者が意思疎通の手段を選択する機会や情報の格差により社会への参加が制限され、自分に与えられた権利も行使することが困難な状態におかれています。
中でも、手話は、ろう者がこれまで自己の生活を営むための第一言語として大切に育んできましたが、「障害者の権利に関する条約」や「障害者基本法」で手話が言語として位置づけられた現在も、手話がろう者にとって生活を営む上で必要不可欠な言語であること及びろう者と手話が共に歩んできた長い歴史があることに対する理解が社会的に深まっているとは言い難い状況です。
このような状況を踏まえ、本町においては、手話言語の理解及び普及を図るとともに、手話のほか、要約筆記、点字、音訳、拡大文字、平易な又は具体的な表現等あらゆる障がいの特性に応じた多様な意思疎通の手段が、障がい者にとって必要不可欠であるという認識に基づき、障がいに対する理解を深め、全ての町民が、平等で互いの存在価値を認め多様な個性を尊重し合う、人に優しく安心して暮らせる美瑛町を目指し、この条例を制定します。
条 文
(目的)
第1条 この条例は、手話言語の理解及び普及並びに障がいの特性に応じた意思疎通 の支援についての基本理念を定め、町の責務並びに町民及び事業者の役割を明らかにするとともに、障がいのある人もない人も分け隔てられることなく、互いを理解し個性を尊重することによって、誰もが自分らしく安心して暮らすことのできる地域共生社会の実現に寄与することを目的とします。
(用語の定義)
第2条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるとおりとします。
(1) 障がい者 身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含みます。)、難治性疾患その他の心身の機能の障害(以下「障がい」といいます。)がある者であって、障がい及び社会的障壁(日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいいます。)により、継続的又は断続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にある者をいいます。
(2) ろう者 主に手話を言語として用いる聴覚に障がいがある者をいいます。
(3) 意思疎通手段 手話、筆談、音声認識システム、要約筆記、弱視手話、触手話、指点字、点字、音訳、手書き文字、拡大文字、口文字、重度障害者用意思伝達装置、絵図等の表示、身振り等の合図、ルビ、平易な又は具体的な表現その他日常生活又は社会生活において障がい者がその障がいの特性に応じて使用する意思疎通の手段をいいます。
(4) 町民 町内に住所を有する者、町内で働く者、町内で学ぶ者及び事業者をいいます。
(5) 事業者 町内で事業活動その他の活動を行う団体又は個人をいいます。
(6) 合理的配慮 障がい者が日常生活及び社会生活において、障がいがない者と同等の権利を行使することを確保するため、必要かつ適切な現状の変更及び調整等を行うことをいいます。
(7) 意思疎通支援者 手話通訳士・通訳者、要約筆記者、点訳者、音訳者(朗読者を含みます。)、盲ろう者向け通訳・介助員その他障がい者の意思疎通の支援等を行う者をいいます。
(基本理念)
第3条 手話言語の理解及び普及は、手話が独自の言語体系を有する文化的な所産であり、かつ、ろう者が心豊かな日常生活及び社会生活を営むために受け継いできたものであるとの認識をもって行わなければなりません。
2 障がい者が情報を取得し意思疎通手段を選択して利用する機会の確保は、障がいのある人とない人が互いの違いを理解し、その個性と人格を尊重し合うことを基本として行わなければなりません。
3 障がい者が意思疎通手段を利用する権利は、最大限尊重されなければなりません。
(町の責務)
第4条 町は、前条に規定する基本理念(以下「基本理念」といいます。)にのっとり、手話言語の理解及び普及並びに障がいの特性に応じた意思疎通の支援に関する施策を推進します。
(町民及び事業者の役割)
第5条 町民は、基本理念に対する理解を深め、地域共生社会の実現に向けて主体的に行動するとともに、町が推進する施策に協力するよう努めるものとします。
2 事業者は、障がいの特性に応じた意思疎通が行われるよう合理的配慮を提供しなければなりません。
(施策の推進)
第6条 町は、第4条に規定する責務を果たすため、次の各号に掲げる施策を総合的かつ計画的に推進します。この場合において、町は、障がいのある当事者、意思疎通支援者及びその他の関係者の意見を聴き、その意見を尊重するように努めなければなりません。
(1) 手話言語の理解及び普及のための施策
(2) 意思疎通手段の理解及び普及のための施策
(3) 意思疎通手段を利用する上で必要な環境の整備に関する施策
(4) 意思疎通支援者等の確保及び養成に関する施策
(5) 前各号に掲げるもののほか、この条例の目的を達成するために必要な施策
(財政上の措置)
第7条 町は、前条に規定する施策を推進するため、必要な財政上の措置を講ずるよう努めます。
(委任)
第8条 この条例に定めるもののほか、必要な事項は、町長が定めます。
経 過
「障害者基本法」や「障害者の権利に関する条約」、そのほか北海道の条例等により手話が言語として位置づけられたこと、障がいの特性に応じた意思疎通の支援に関することなどについて規定がなされていますが、十分に周知・普及しているとは言い難い状況です。
手話言語については、当事者や関係団体から多くの方々に手話が一つの言語であることを知ってほしい、手話言語に係る条例を制定してほしいとの要望をいただいていました。
また、障がいの特性に応じた意思疎通の支援については、障がいのある人が手話、要約筆記、点字、音訳、拡大文字などの意思疎通の手段を選択して利用する機会を確保するためには、障がいのある人とない人のより一層の相互理解が必要となります。
このような背景や経過を踏まえ、美瑛町地域自立支援協議会に条例検討部会を設置し、協議会委員のほか当事者や関係者にもオブザーバーとして参画いただいた中で、条文や条例内容等の検討を進めてきました。
- 美瑛町地域自立支援協議会開催状況
○美瑛町地域自立支援協議会 計5回
(令和5年度)
令和5年8月2日、令和5年10月31日、令和6年3月22日
(令和6年度)
令和6年8月7日、令和6年10月18日
○美瑛町地域自立支援協議会条例検討部会 計6回
(令和5年度)
令和5年8月2日、令和5年9月14日、令和6年2月22日
(令和6年度)
令和6年6月14日、令和6年7月17日、令和6年10月9日
- その他の状況
令和6年12月16日~令和7年1月16日
○まちづくり委員会(条例概要の説明)
令和7年1月16日
○議会提案・議決
令和7年2月26日提案、令和7年6月20日議決